お金の日本史 和同開珎から渋沢栄一まで 朱子学の暗黒面 読書メモ


    今年の 12 冊目。井沢 元彦 著「お金の日本史 和同開珎から渋沢栄一まで」読了。

    ここ何年か読書量が減っているんだが、それにしても今年はたったの 12 冊か。それでも去年は 37 冊読んでいるから、これはかなり酷いなぁ。と、いまさら反省してもなんにもならないので、来年はもうちょっと読むようにしましょうかね。

    どうも今年の傾向としては歴史に関する本が多かった。まぁ「経済で読み解く日本史」や「天皇の国史」なんてものがメインだったのでそれはいいのだが、締めくくりもやはり日本史だ。しかも「お金の日本史」。「経済で読み解く日本史」と被るところはあるけど、こちらは和同開珎という日本最古のコイン、いや、正確にはそれ以前にも無紋銀銭や富本銭があったけど、流通量ということで考えるとどうやら和同開珎が「通貨」としては日本最古ということになりそうなんだが、通貨としての歴史にも触れているので読んでみた。
「経済で読み解く日本史」は室町時代からしか書いてないしね。

    その「和同開珎」がなぜ作られたのかというところから話ははじまっている。経済全体ということで話をすると日本に貨幣による経済があまねく成立したのは、たぶんだが平安末期から鎌倉時代にかけてということになるんだろう。
    それまでは物々交換がメインだったようだ。経済圏も小さいということになる。
    そんな背景を考えて、なぜ大和朝廷が「和同開珎」を作ったのかというと、対中国独立宣言といった意味ではないかと井沢氏は説いている。なるほど。詳細は読んでもらいたいのだが、確かに日本は中国のいわゆる冊封体制を拒否した。遣隋使や遣唐使はおこなっていたけど、あくまでも文化交流がメインで、けっして他国のように朝貢して冊封を受けることをよしとしなくなったのだ。
    その象徴として日本独自の通貨を発行したというわけだ。

    さてさて、その日本で通貨による経済が成り立ちはじめたのは、しかし宋銭からだ。これは平家が貿易を通じて日本に大量に持ちこんだからだ。平家という政権、ぼくはこれ正確には武家政権だとはとても思えないんだが、しかしシーパワーに長けた政権で、貿易による財力で政権を掌握したといってもいいだろう。
    この流れは戦国自体まで続く。要するに日本で流通する通貨は宋銭や明銭といった銅銭だった。なぜ日本独自の通貨が流通しなかったのかといえば、日本はあくまでも基本が「米」だったからといえるだろう。なにしろこの基本的な考え方は江戸時代まで続いてしまう。この基本路線から離れられなかったために、歴代の江戸将軍は経済運営に苦しめられることになる。

    この貿易による銅銭をその勢力拡大に大いに活用したのがじつは寺社勢力だ。これについては「経済で読み解く日本史」が詳しい。それから足利義満だね。彼の財力は、なんと勝手に日本国王と名乗って中国の冊封を受けたことによる。いや〜、なんて男でしょう。
    でも中国の銅銭に頼ることでしか通貨量をコントロールできないために、室町幕府も朝貢を止めてしまった義持以降はデフレに苦しむことになる。

    金山を掌握して財政力を誇ったのが豊臣秀吉だ。織田信長まではまだ中国の銅銭が基本だった。しかし秀吉は金の大判を作ったりと、金の財力を誇った人物である。
    しかし皮肉なことはこの金山だが、じつは徳川家光のころにはすべて掘り尽くしてしまい、徳川幕府はこの金を財政のベースにすることができなくなってしまった。まぁ、基本が米だったけど、しかしこれがこのあと江戸幕府を苦しめることになる。

    江戸時代の三代改革といえば「享保の改革」「寛政の改革」「天保の改革」だ。これらに共通するのが「質素・倹約」。そうすべてデフレ対策なのよ。しかも「享保の改革」は吉宗の時代だけど、彼は徹底的に農民から搾り取ることに注力を傾けた。経済的に困窮しているから、ともかく米をかき集めることに必死だったわけだ。でもね、米の価格って一定じゃないよね。ここがおもしろいところでもあり、なぜにそこに着目しなかったのか疑問なんだけど、米の収穫量が増えれば増えるほど、米の価格は下がる。
    武士は米が収入源だ。ということは米が増産されればされるほど実質賃金は下がっていくことになる。これってなんて表現すればいいのかな。自分で自分の首を絞めているのに等しいよね。

    じつはこの改革の前に画期的な手法で経済状態を大きく改善した人がいた。荻原重秀だ。彼はなにをしたのか ? 貨幣改鋳をしたのだ。小判に含まれる金の量を減らして新しい小判を作った。これはなにを意味するのか ? いまでいうと日本銀行が国債を購入して円を発行するのと同じ意味になる。つまりシニョリッジ、通貨発行益だ。この手法で経済状態を立て直した。いや〜、こんな政策って世界でもはじめてじゃないかといえるほど素晴らしい考えだ。元禄文化はこの好景気で生まれたといっていい。

    こんな素晴らしい改革をしかし全面否定した人がいる。それが新井白石だ。この男が江戸の好景気にストップをかけました。経済的にはただの大馬鹿だよね。なんと貨幣改鋳をおこない含有量を元に戻した。そしてなにが起こったか。デフレだ。
    なぜにこんなことが起こったのかというと井沢氏はすべては朱子学のなせる技だという。なにせ朱子学は「商は詐なり」ということで、徹底的に商業を否定したからだ。つまり簡単にいうと、銭儲けは悪であるという思想だ。だからこのあとの田沼意次による政策も否定されてしまう。幕府は商売を認めないのだ。
    出島で貿易をしていてもそこで利益を上げることを否定する。いや、なんのために貿易しているのかといえば必要な医療品などを輸入するためで、利益を上げることなど言語道断ということだ。
    まぁ、この思想がともかく幕府をじつはいろいろな面で締め上げてしまうんだよね。幕府が倒されたのも、じつはこの朱子学がその根拠になっている。

    ということで書いていくと切りがないけど、斯様にじつは「お金」って歴史のある側面をとても正確に見るひとつの尺度となるわけだ。でも、学校ではこんな教わり方はしてこなかった。なぜかというと、井沢氏によれば、歴史の専門家は宗教や経済学をまったく無視して歴史を見ているからだということになる。

    ということで、こういう視点で歴史を見ていくと新しいその時代のことが解ってくるはずだ。
    徳川吉宗なんてなんだかドラマなんかでも描かれているからか、将軍としてはとてもいいイメージがあるけど、じつは庶民文化を破壊して、農民を苦しめたある意味では酷い将軍だったわけですよ。まぁ、なにもかも朱子学のなせる技なのかもね。

    新しい視点で歴史を見てみたい人にはお勧めの一冊です。いや、目から鱗がポロポロ落ちること請け合いですって。


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